Dr.岡崎の胃腸とこころ 最終回 胃腸はこころの鏡
2014.06.03
胃腸とこころ 最終回
一般財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀
胃腸はこころの鏡
昔から人々の言葉の中に、胃腸とこころの密接な関係をあらわす言葉がたくさんあります。
「考えごとがあるとごはんが食べられない」「心配ごとがあると胃が痛くなる」に始まり、「旅行に行くと便秘になる」「神経を使うと下痢になる」、さらには「腹ふくるる」「腹に据えかねる」などの「腹」も胃腸とこころの関係をあらわしています。
「大店のお嬢さんが恋をすればお医者様でも草津の湯でも(治らない)」は落語の世界で、恋の興奮のあまり胃腸が緊張し食事がのどを通らなくなった話です。「恋すれば わが身は影と成りにけり さりとて人に 添わぬものゆゑ」(古今和歌集 よみびと知らず)は歌の世界で、身は影のように痩せてと言う意味と影のように添うとをかけていますが、やはり恋わずらいで食事が摂れなくて痩せたことを言っています。
さて、胃腸はおなかの中にありますが、「こころ」はどこにあるのでしょうか。心臓ではなく脳のなかにあることは間違いないのですが、脳のどこにあるか はまだわかっておりません。一つの部位なのか、いくつかの部位の働きの結果 であるのかどうかもわかっておりません。
また、「こころ」とは何かと言う問題もあります。一般には、感情、情動、知 能の集まりと考えられていますが、何かと問われるとこれも難しい問題です。いまのところ、こころはこころで良いのではないかと思っています。
医学の世界では「脳腸相関」と言う用語があり、脳と胃腸が密接に関係し合うことが明らかになっています。これはこころと胃腸が深い関係にあることをいっています。
感情などと関係の深い脳の部分は、前頭葉と言われる脳の前の部分にありま す。ここに受けた脳細胞への刺激に反応して、脳神経を通して刺激が脳の中心部にある視床下部というところに伝えられます。
ここは自律神経とホルモンの働きの指示を出すところです。ここから感情などこころの変化に応じた必要な体の働きがおこります。
緊張したり怒ったりするこころの変化で、ただちに自律神経が反応します。自律神経は交感神経と迷走神経(副交感神経)がありますが、まず循環器に緊張を与える交感神経が反応し血管が収縮します。緊張すると顔が蒼くなったり脈が速くなるのはこのためです。血圧も上昇します。
次いで迷走神経の緊張が腹痛、吐き気、下痢を起こし、こころの負担が続きますと胃腸関係の病気となり、早期には急性潰瘍、急性胃粘膜障害、長くなると過敏性腸症候群、過食症、空気嚥下症となってきます。これまでの9編のお話しは、代表的な胃腸とこころのバランスが崩れた例となのです。
このように、こころの変化で最も影響を受けやすいのが胃腸であり、こころの変化をもっともあらわしやすいのです。このため、古来より「胃腸はこころの鏡」と言われてきています。
皆さんも、鏡に何かが写ることはありませんか。写りましたら3日間は気分転換、それで変化がなければ医師にご相談ください。
最近では、胃腸が悪いと逆に脳の変化、つまりこころの変化を起こすという説も出てきました。ただし、これは胃腸が悪いということがストレスになると言うことも絡まっており、現在、最先端の分野で研究が続けられています。
財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀 |
山口県防府市の新聞 防日新聞に連載中!
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新聞社名:防日新聞社 山口県防府市寿町1-2
掲載新聞:防日新聞 第6317号 平成25年10月22日掲載
項目 :胃腸とこころ 最終回 「胃腸はこころの鏡」
著者 :財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀
日本消化器病学会名誉会員・指導医
日本消化器内視鏡学会功労会員・指導医
財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院 所在地:山口県防府市駅南町14-33 (山口県の中央部 瀬戸内海に面した街) 診療科目: 消化器外科、消化器内科、内視鏡外科、内視鏡内科、疼痛緩和内科、胃腸外科、胃腸内科、外科、内科、放射線科
※ 財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院は、山口県防府市(防府市役所前)にある消化器専門の病院です。 腹腔鏡下手術(単孔式) 、腹水治療(KM-CART) 、緩和ケア 、内視鏡検査・治療(胃カメラ・大腸カメラ) 、人間ドック 、健康診断・ピロリ菌検査・頸動脈エコー検査) |