Dr.岡崎の胃腸とこころ 4 嫁と姑(腹痛・便秘)
2013.12.20
胃腸とこころ 4
財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀
嫁と姑 腹痛・便秘
大学病院の胃腸専門外来では、腹痛と便秘の症状を訴えて受診される50才代から60才代前半の女性をしばしば診察しました。
診察では大腸が硬く触れますが、内視鏡検査をしますと異常はなく、大腸X線検査で緊張した状態が観られました。検査の説明を含めて、診察のたびに、家庭の状況、周囲との対人関係、趣味や一日の行動を聴いてみました。
ある患者さんの場合、長男夫婦と3歳の孫とで、他人から見れば言うところの無い家族との評判だそうです。嫁は物事をてきぱきと片付け、近所にも受けがよく、良いお嫁さんといわれています。しかし、裏を返せば勝気ではっきりものを言い、何かすればそれはいけません、古い習慣です、とか、それは健康によくありません、と言います。食事は嫁が作り、油が多く食べる気になりません。テレビは、チャンネルを奪われ、若い人向きの番組ばかりです。孫の相手をすれば、それは教育上よくありません、と怒られます。近所の人と長話をすると、また私の悪口でしょう、と皮肉を言われます。主人に、何とかならないかと言うと、嫁の肩を持ち、若い人の考え方だからいいじゃないかと言うばかりです。私はどうしたら良いのでしょう、とのことであった。
この地は石炭から化学工業へと急速に変化し、旧家の少ない新興都市で、若い世代の力の強い傾向がありました。
その後赴任した、別の病院では、30歳代前半の女性の腹痛と便秘の訴えが目立ちました。検査を進めながら、同様にお話を伺ってゆきますと、お姑さんが強くて、地域の習慣にうるさく、食事は淡白なものしか作らせず、子供は甘やかしてばかりで、主人に相談すると「親だから」と言うだけです。私はどうしたら良いのでしょう、ということでした。当地は古くからの商業都市で、旧家が多く慣習が重んじられる街でした。商業都市は人のうわさがつきもので、お嫁さんの評価もその中に入るそうです。
これらの症状は、慢性の心のストレスによりおこるものですが、当初は命にかかわるほどではありません。しかし、環境が変わらない限り症状は強くなって行き、日常の生活ができなくなり、家庭崩壊ともなります。
治療法ですが、薬で症状を少しでも軽くしながら、ご本人にはできるだけ目を外に向け、お姑さんには老人クラブでも趣味の会でも、ゲートボールでも、また、お嫁さんには保育園や学校の会合、クラブ活動、音楽会、美術鑑賞などできるだけ外に出かけることを勧めました。家庭内の改善は極めて困難ですが、どちらの場合も配偶者を呼び協力を求めました。症状が強くなれば、心療内科の応援もいただきました。
嫁と姑の問題は、武士社会から始まったそうですが、現在では永遠の課題とも言われています。自らも経験し、その解決の難しさと、両者の間に立つ身としては「沈黙は金なり」の言葉の意味をつくづくと悟りました。もっとも、妻に言わせれば「男の甲斐性がものをいう」のひとことでした。
財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀 |
山口県防府市の新聞 防日新聞に連載中!
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新聞社名:防日新聞社 山口県防府市寿町1-2
掲載新聞:防日新聞 第6317号 平成25年10月22日掲載
項目 :胃腸とこころ 4 「嫁と姑」 腹痛・便秘
著者 :財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀
日本消化器病学会名誉会員・指導医
日本消化器内視鏡学会功労会員・指導医
財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院 所在地:山口県防府市駅南町14-33 (山口県の中央部 瀬戸内海に面した街) 診療科目: 消化器外科、消化器内科、内視鏡外科、内視鏡内科、疼痛緩和内科、胃腸外科、胃腸内科、外科、内科、放射線科
※ 財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院は、山口県防府市(防府市役所前)にある消化器専門の病院です。 腹腔鏡下手術(単孔式) 、腹水治療(KM-CART) 、緩和ケア 、内視鏡検査・治療(胃カメラ・大腸カメラ) 、人間ドック 、健康診断・ピロリ菌検査・頸動脈エコー検査) |