Dr.岡崎の胃腸とこころ 6 父の背中(機能性胃腸症)
2014.02.19
胃腸とこころ 6
財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀
父の背中 機能性胃腸症
消化器疾患のコンサルタントで週一回勤務していた病院でのことでした。16才の高校1年生の女生徒が、中学2年生の頃から続く毎朝の吐き気と腹痛と体重減少のため、この3年間入退院を繰り返していますが、何とかなりませんかと担当医からの紹介がありました。
診察しますと身体に異常は認めず、質問にも明晰に答えました。それまでの各種の検査所見では胃腸の緊張の所見はありましたが他に異常はありませんでした。胃腸の過緊張の状態を考え、早朝に起こることから、学校でのトラブルを疑い、担任の先生にも来院していただき、両親には何度も来院していただき生い立ちから性格、親子・兄弟・友人関係など尋ねましたが、問題となる点はありませんでした。
1ヵ月もすると症状は全く消失し、元気に退院して行きました。しかし3ヵ月後には同じ症状で来院しました。心理的な問題があると思い何度も問診しましたが、最初の入院時と同じ答えでした。入退院を繰り返していましたが、高校二年生の終わりごろ退院し、それ以来プッツリ来院しなくなりました。
それから1年半後の夏、病棟の回診をしていましたら、長期入院の患者さんのそばに元気いっぱいの制服姿のオフィスガールがいて、「先生、その節はお世話になりました。」と言いました。見ると彼女でした。
余りの変化に、病棟のナースセンターで、その後の経過を教えてもらいましたが以下の如くです。
もともとは両親と弟の4人暮らしで、両親が共働きなので小学校の高学年の頃から、夕食の準備、お風呂の準備などをし、両親や近所の人から良い子と褒められていたそうです。中学1年の時、別に暮らしていた父方の祖母が高齢のため同居するようになりました。ところが祖母は、ガスはつけっぱなし、お風呂の水はだしっぱなしなど、危なくて見ていられなくなりました。心配で母に話したところ、「お父さんのお母さんだからねー」とだけいって注意してもらえませんでした。ますますひどくなるので、ついに父に話したのですが、「年寄りを大事にしろ!」と優しかった父から怒鳴られ、見捨てられたようで大変悲しくなりました。以来、朝起きて祖母の姿を見るとおなかが痛くなり、吐き気が強く、ご飯が食べられなくなりました。学校にいるときは良いのですが、夕方家に帰ると同じ症状が出ました。父は忙しく、母が心配し、当院に入院しました。入院中はすぐ気分がよくなり、体重も回復しますが、退院し祖母の姿を見ると同じ症状になりました。
最後の入院の後、父も心配して、近くの「お祈りさん」(女性祈祷師)に原因を占ってもらいました。30分ぐらい呪文があり、気合とともに父に「お前の家の床下の東の空気が澱んでいる。それを取り除け!」とご宣託がありました。それを聴いた父は家に帰り早速に狭くて暗い床下に潜り込み、腹這いになって床下のコンクリートに穴をあけ始めました。汗みどろになって槌をふるう父の背中を見ていると「お父さんはやっぱり私のことをこれだけ思ってくれているんだ。」と胸がいっぱいになり涙がポロポロでました。すると、体がふっと軽くなり、おなかがすっきりしました。その後症状は全くなくなりました。
あれだけ診断に苦労し治療も出来なかったことを、お祈りさんは30分で解決しました。祖母の話を私たちにしなかったのは、父に悪いと思ったとのことでした。今一つ、詰めが甘かったと深く反省し、お祈りさんに敬意を表した次第です。
財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀 |
山口県防府市の新聞 防日新聞に連載中!
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新聞社名:防日新聞社 山口県防府市寿町1-2
掲載新聞:防日新聞 第6317号 平成25年10月22日掲載
項目 :胃腸とこころ 6 「父の背中」 機能性胃腸症
著者 :財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀
日本消化器病学会名誉会員・指導医
日本消化器内視鏡学会功労会員・指導医
財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院 所在地:山口県防府市駅南町14-33 (山口県の中央部 瀬戸内海に面した街) 診療科目: 消化器外科、消化器内科、内視鏡外科、内視鏡内科、疼痛緩和内科、胃腸外科、胃腸内科、外科、内科、放射線科
※ 財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院は、山口県防府市(防府市役所前)にある消化器専門の病院です。 腹腔鏡下手術(単孔式) 、腹水治療(KM-CART) 、緩和ケア 、内視鏡検査・治療(胃カメラ・大腸カメラ) 、人間ドック 、健康診断・ピロリ菌検査・頸動脈エコー検査) |