広報誌「いてふ」第93号(2月号)
2025.01.31
(2025年2月発行)
防府胃腸病院 広報誌「いてふ」第93号 目次
◇「第3回YAMAGUCHI消化器疾患研究会」を開催しました
広島大学病院消化器外科
防府消化器病センター内視鏡外科講座助教 佐伯吉弘
2025年1月17日、防府グランドホテルにおいて第3回 YAMAGUCHI消化器疾
患研究会が開催され、胃癌の外科治療に関してお話しさせていただきました。
胃癌手術が定型化され治癒するようになった近年では、医療の流れは縮小手術
や低侵襲手術におけるエビデンスの構築にシフトチェンジしております。傷の小
さな腹腔鏡手術は見た目の整容性だけではな<、出血量が少ないため、患者さん
の負担も少な<術後の回復も早いことが、多<の臨床試験から証明されています。
また科学的にも腹腔鏡手術では開腹手術に比較し術後の患者さんで生じる炎症が
低いことがわかっています。このような背景から現在では、早期胃癌のみでなく
進行胃癌においても腹腔鏡手術が推奨される時代となってきました。
当院では腹腔鏡手術を胃癌手術の84.4%(2021年)で取り入れており、最新の
腹腔鏡器具を用いて手術を行うことが可能です。また、2021年~2023年の3年
間で胃癌202症例に対して内視鏡治療を78症例、外科治療を78症例、切除不能
進行・再発胃癌の診療を46症例で行っています。
初診からの治療介入の期間においては、内視鏡治療が28.5日(1-58日)、外
科治療が21.5日(6-64日)、化学療法が12日(6-33日)と迅速に対応してい
ます。内視鏡治療では受診前に診断がついている方は、初診翌日に治療を行うプ
ログラムもあり、7症例が翌日に治療を受けられていました。これらの内容を開
業医の先生方と共有することができ、非常に実りある研究会となりました。
佐伯吉弘先生には「胃癌における外科治療」と題して、広島大学病院における
最新のロボット手術の現状とメリットなどを、また、広島大学病院がん化学療法
科教授 岡本渉先生には「胃癌治療の最新情報と地区における医療連携」と題し
て胃癌化学療法の最新情報に加えて、がん治療においても重要な要素となる地域
における医療連携の在り方についてご紹介いただきました。
今回の研究会は「胃癌」をテーマとし、両輪である外科治療と化学療法という
二つの側面からのアプローチでした。当院では、今後も地域の先生方との連携を
更に深め、がん治療に取り組んでまいりたいと思います。ご来場いただきました
皆様、ありがとうございました。
◇胃癌とピロリ菌
診療部副部長 釘宮成二
胃癌治療は、日進月歩ではありますが、胃癌を予防すること、早期発見するこ
とが重要です。
胃癌の発症リスクには、①食塩・塩蔵食品②喫煙③ヘリコバクター・ピロリ菌
感染などがあると言われております。このうちピロリ菌感染に対しては、除菌治
療を行うことで、リスク軽減につながります。
当院では、昨年1年間で260人が除菌治療を受け、97%の患者さんが除菌に成
功しています。具体的には、以下の方法で行います。
①胃内視鏡検査(胃カメラ)を行い、胃の萎縮や炎症を評価します。
②血液検査や生検検査などで、ピロリ菌の存在の有無を確認します。
③胃薬を1種類、抗生剤を2種類、1週間、内服していただきます。
④除菌判定を行うことで、除菌が確定します。
胃カメラはつらい…、これを少しでも解消するために当院では、鎮静(眠りなが
ら)での検査、細いカメラ、鼻からのカメラなど工夫をしております。主治医の先
生と相談しながら、適切な間隔で胃カメラを受けていただけると幸いです。
しかしながら、除菌後でも胃癌の発症リスクはゼロとはなりません。定期的な
胃内視鏡検査を行うことが重要となります。早期癌で発見することができれば、
胃を残す治療が可能となります。
◇「腸活コラム⓫」
和して同ぜず!
外敵から大切な身体を守ってくれる「免疫」。一方、潰瘍性大腸炎やクローン病
のような自己免疫疾患では、免疫システムがバランスを崩し、免疫細胞が自分の
体を攻撃してしまいます。これらの疾患の発生のしくみは、未だ不明なところが
多いものの、これら免疫細胞の暴走を止めるシステムが弱いのではないかとも考
えられています。
免疫細胞のひとつに制御性T細胞と呼ばれるものがあり、免疫の暴走を制御す
る働きを担っています。略して「Tレグ細胞」と呼びますが、コラムでも再々取り
上げました短鎖脂肪酸の1種である「酪酸」は、この「Tレグ細胞」の成熟を促進す
るといわれています。
炎症性腸疾患の患者さんでは、これらの酪酸菌が少ないという報告もあります。
何事もバランスが崩れるといいことはありません。このほか、新型コロナの重症
化でキーとなるサイトカインストームという現象にも免疫の暴走が関係しており、
これらの患者さんでも酪酸菌が減少しているという報告もあります。酪酸菌の影
響は、語りつくせません。いずれにしても、腸活は万病に影響する可能性がある
といっても過言ではないでしょうか。免疫系統も「和して同ぜず」で、自らの役割
信念に基づいて働きつつも、調和を大切にしてほしいものです。
◇医療ガス安全講習会を開催しました
医療ガスを安全に取り扱うための院内研修を毎年開催しています。4月、10月
には新採用者を対象に医療ガスの基本について研修を行いましたが、今回1月は
医療ガスに携わる多職種が参加。「ヒヤリハツト事例による安全確認」と題して、
身近に起こりうる事故例を中心にちょっとした不注意や勘違い、知識不足が患者
さんや自分自身を危険にさらすことのないよう、しっかりと学習しました。
〇2月の外来診療予定表 ☚クリック
「いてふ」の診療予定表またはホームページ内の外来医師担当でご確認ください
〇Editorial Note 事務局長 栗林 左知
節分を迎えるたびに鬼を考えます。節分には邪気の化身として鬼を祓います。
地獄の描写では、獄卒として鬼は閻魔様のもと、罪深き亡者を嬉々とし苦しめま
す。「なまはげ」は、子供を泣かして回る見た目も邪鬼の様ですが、実は来訪神で、
五穀豊穣などをもたらす使者として謹んで出迎えられます。囲炉裏に張り付いて
動かない怠け者を懲らしめる「なもみ剥ぎ」の役割もあったようです。罪深きもの
や怠け者視点でいくと、鬼も神も怖い存在になりますね。何事も多様な側面があ
るということでしょうか。
一般財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院 所在地:山口県防府市駅南町14-33 (山口県の中央部 瀬戸内海に面した街) 診療科目: 消化器外科、消化器内科、内視鏡外科、内視鏡内科、疼痛緩和内科、胃腸外科、胃腸内科、食道内科、外科、内科、放射線科、リハビリテーション科、麻酔科 ※ 一般財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院は、山口県防府市(防府市役所前)にある消化器専門の病院です。 腹腔鏡下手術(単孔式)、腹水治療(KM-CART)、緩和ケア、内視鏡検査・治療(胃カメラ・大腸カメラ)、人間ドック、健康診断・ピロリ菌検査・頸動脈エコー検査) |